技術者は専門用語がお好きのようです。いや、技術者に限らず、どの分野でも、いわゆる、専門家と称される人たちは、この「専門用語」を好んで使うことが多い。時には「業界用語」などと言ったりすることもあります。これが原因で、自分たち、専門家とそれを持たない人たちとの間に「壁」ができることがあります。

 この「壁」はなんとなく心地よい。自分が特殊な(能力)を持つ人間のような気がしてくる。なんだか、偉くなったような気がすることもある。素人と自分を区別するために、わざと「専門用語」を駆使する方も多い。しかし、それが度を超すと、誰も相手にしなくなってきます。「訳わからんやつ」、と言われ、あの人、「○○オタク」だし」みたいに言われてしまうこともあります。そこまで極端でなくても、われわれ技術者は、「専門用語」を使うことが多い。当然、専門的な知識や技術を持っているわけですから、それを表現するのに「専門用語」を使うことが悪いわけではありません。

 しかし、陥りやすいのが、そういった「専門用語」を使うことによって、思考が停止してしまうことです。「専門用語」を使うことで、すべてが説明されてしまうような錯覚に陥ることもあります。本当は、よくわかっていないことも、言葉で騙されてしまうのです。そこで、自分自身の思考が停止してしまい、「○○だから」、でかたずけてしまったりすることはありませんか?

 「オブジェクト指向」(Object Oriented)という、ソフトウエア用語があります。この言葉自身は、わたしが就職したころ、30年近く前から存在していたと思います。いまでは、ソフトウエア開発環境において、この、オブジェクト指向という言葉を聞かずに済ますことはできません。古い時代にソフトウエアの仕事をしていた技術者が、最近になって、またその仕事を再開しようとするとき、ぶち当たるのがこの言葉ではないでしょうか。「サブルーチン」とか「ライブラリー」という概念と何が違うのか悩み始めます。もちろん、各種書籍を読み、この「オブジェクト指向」の意味をつかもうとします。辞書を引いてみると、「物、目標物、対象」などと、ますます訳がわからなくなってしまいます。さらに、関連して、「クラス」などという言葉も頻繁に出現してきます。はたまた、「インスタンス」となるともうお手上げです。

 海外からの新しい技術が導入されるときに、現地で使われている専門用語がそのまま入ってくることは良くあることでしょう。このとき、中学校から続いた英語教育が邪魔をしてきます。たしかに、学校で英語の勉強をしてきたときにも、「オブジェクト」、「クラス」、「インスタンス」という単語は出現していたのでしょう。しかし、実務で再会するこれらの単語は全く持って意味不明となってしまっています。こんなことは良くあることです。

 わたしの場合の解決策は、「何も考えない」ことです。「そういうものをそう言うんだ」と。それだけです。私たちが日常使っている言葉にしても、「机(つくえ)」、「椅子(いす)」、なんて「そういうものをそう言うんだ」、ということでしか理解していないし、何の問題もありません。「言葉なんて、そんなもんさ」と。功名な言語研究者には叱られそうですが、大事なことは、「それをなんと呼ぶか」ではなく「それは何なのか」でしょう。それが自分の言葉で表現することができるのなら、一般的それを「オブジェクト」と呼ぼうがなんでも良し、としておきましょう。

 専門用語に頼らないこと、そして、躓かない、ことが大事です。「本質」が大事なのです。