昔、新入社員だったころ、職場の上司に「(電子回路)技術者の3種の神器って知ってるか?」と聞かれたことがあります。その上司に言わせると、「オシロスコープ」、「テスター(デジタルマルチメータ)」、「周波数カウンタ」なのだそうです。たしかに、オシロスコープは波形観測(時間軸観測)、テスターやDVMは直流系の測定、そして、周波数カウンタはそれらの時間変化(周波数)を定量的に観測することができるので、「なるほどな」と思った記憶があります。

 もちろん、それぞれの扱える帯域や性能にもよりますが、重要なことは、「直流」、「時間軸観測」、「周波数軸観測」の三つの要素が計測の基本だといえるのではないでしょうか。どのような高速な回路や高周波回路であっても、半導体デバイスなどはその直流バイアス系の設計を抜きにしては動作しません。たとえ、C結合の回路であっても、トランジスタには安定したバイアス電流を流してあげる必要があります。また、時間軸観測という意味で、オシロスコープを代表とする波形観測も大事ですが、波形観測だけではつかみきれない現象が多数存在します。ここで重要になってくるのが「周波数軸観測」です。さすがに、周波数カウンタでは得られる情報は少ないのですが、タイムインターバルアナライザ、FFTアナライザ、スペクトルアナライザ等の周波数分析器を有効に活用したいところです(波形を見ただけで、頭の中でフーリエ変換・逆変換が行える頭脳をお持ちの方はこの限りではありませんが)。

 どうも、電子回路技術者は、「オシロスコープ(時間軸)派」と「スペクトルアナライザ(周波数軸)派」に分かれているような気がします。どんな場合でも、オシロスコープさえあればOKという環境で育った技術者はあまりスペクトルアナライザが上手に使えないようです。また、逆に、高周波回路(無線)の技術者は、「まず、スペクトルアナライザ」という感覚があるのではないでしょうか。両者の測定器はそれぞれ、「同じ現象」を違う手法で観測しているのですが、場合によっては、一方の観測結果だけでは間違った判断を下すこともあります。

 昔、わたしにもこんな経験があります。ftが数GHzのトランジスタを使って、帯域数MHzの簡単な差動増幅器を試作したのですが、テスターでバイアス電圧等を測定すると、どうしても計算どうりの値にならない。バイアス回路は単純な抵抗分割なのに・・。その出力波形を帯域100MHzのオシロスコープで観測すると、問題なく、波形が出ている。賢明な皆さんはすでにお気づきでしょうが、回路が数GHzで発振していたわけです。テスターは直流に乗った高周波成分によって誤った値を表示し、オシロスコープによる観測はそのプローブインピーダンスによって、発振が止まってしまい正常な波形を示していたわけです。もちろん、テスターもオシロスコープの付いていない通常の状態ではガンガンに発振していたことでしょう。ためしに、手元にあった帯域20GHzのスペクトルアナライザをワンターンのコイルで疎結合させて観測してみると、あらら、ぐちゃぐちゃとスプリアスの大群。これ以来、わたしは、検証時には直流測定、波形観測、そして周波数軸(成分)観測の3つを必ずおこなうようになりました。